東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1613号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)被告は木造ルーフイング葺平家建七坪二合五勺を所有していたが、昭和二十六年三月十八日増改築をしたので、右建物は木造セメント瓦葺一棟建坪十四坪一合七勺、二階十三坪七合五勺となつた。原告は昭和二十六年十月二十六日被告に対する債権保全のため東京地方裁判所の仮差押決定をえたが被告が無届の増築をなしたため、右決定の仮差押の目的物は木造ルーフイング葺平家一棟、建坪七坪二合五勺実測木造瓦葺二階建一棟建坪十五坪二階五坪と表示された。即ち原告は登記官吏に対し右増改築等の事実を立証することが困難であつたため、昭和二十六年十一月二日前記増築以前の建物の表示のまま同被告のため所有権保存登記がなされ、同時に仮差押の登記がなされ、次いで原告は右仮差押の目的物につき強制競売の申立をし、昭和二十七年七月二十五日強制競売開始決定があり、同月二十九日強制競売の申立があつた旨の登記がなされた。然るに同被告は前記増築部分につき昭和二十七年九月四日所有権保存登記をなし、同月八日被告関のため債権極度額金三十八万円の根抵当権設定登記をした。増築等により建物の同一性は害なはれず、増築部分の建物と雖もそれ以前の建物と別個の所有権の対象となるものでないから被告雪下は同一建物につき二重に所有権保存登記をしたこととなり無効の登記というべくこれを前提とする前記根抵当権設定登記も無効であり、原告は敍上差押債権者として被告等の右無効な登記を抹消することについて正当な利益を有すると主張し、被告等に対し右登記の抹消を求めた。被告等は原告主張の事実関係は大体において認めたが、原告が被告等の右登記の抹消につき利益を有するとの主張を争つた。
(判断)原告敗訴。
判決は被告等のなした登記の無効であるという原告の主張は認めたが、原告は右登記の抹消請求権を有しないとして結局、原告の請求を棄却した。曰く。
「おもうに登記は精確に事実を表示しなければならないことはいう迄もないが、その表示が時に錯誤又は遺漏があるため事実と一致しないことが起りうる。この場合にその錯誤遺漏の程度が軽微であり然もその登記事項全体としては同一性を表わすに足るものと認められるか、又たとえそう錯誤遺漏の程度が軽微でなくても同一不動産につき他に別の保存登記がないか、もしくは第三者に不測の損害を及ぼすおそれのないときはなお更正登記を以つて右の錯誤又は遺漏を更正しうるものと解するのが相当であり、かように更正登記のなし得られるものである限り、その登記は錯誤遺漏があつても有効ということができる。…中略…被告雪下が昭和二十七年九月四日した所有権保存登記(以下第二登記という)は増築の本件建物全部についてなしたものでなく、わずかに増築部分についてしたに過ぎないことは甲第一号証に照し明かである。およそ一棟の建物の一部が独立して所有権の実体となりうるのは当人が一棟の建物を区分して各その一部を所有するときに限られることは民法第二百八条の法意に徴し明かであつて同一人が一棟の建物を区分して各独立の所有権の客体としこれを各別に所有権保存の登記をすることは許されない。 …中略…本件建物には第一の登記の外他に所有権保存登記がなく、また第一登記の前記錯誤の更正登記を許しても第三者に不測の損害を及ぼす惧れがないこと明かで右の錯誤の更正登記をなしうるものということができ、第一の登記は有効である。……中略……原告は被告雪下のなした第二登記の抹消を求める権利は原告の建物に対する差押債権者として当然之を有すると主張するが、原告が被告雪下に対する債権者として同被告所有の本件建物に対する強制執行は当然に増築部分を含めた本件建物全部について同被告のなした第二登記の存在に拘らず有効に進行しうるものであつて(大審院昭和十一年一月二十四日決定参照)差押債権者として何等の不利益を蒙るものでないから右の登記抹消請求権を有しないものといわねばならない。(もし執行裁判所が増築部分を除いた部分についてのみ強制執行手続をすすめるならば原告は民事訴訟法第五百四十四条による異議を申立てて救済を受けうるし、本件建物の弁護人はその所有権に基いて第二登記の抹消を求め得るものである。)」